1月27日(水)0時にSONYからフラグシップ機となるα1の発表があった。正直、値段、機能からして私たち一般人の多くは買わないし、買うことができないと思う(ほぼ中古車だもん)。
しかしながら、このタイミング、時期でこのクオリティの機種を発表したことには、大不況であるカメラ業界のこれまでの多くの常識に一石を投じる機種となることは間違いない。今回はα1の発表に込められたSONYからのメッセージを勝手に読み解きたい。
本発表までの予想と結果
正直、筆者も今回の発表がどうなるのかについて様々に予想させられた。とくに今回の発表はなかなか噂情報が出てこない、リーク画像も出てこないということで直前までどんな機種が出るのか、ほとんどの人がわからない心境だったと思う。内心、久しぶりにわくわくした。
今回の筆者予想
A、高画素α9
8K撮影可能を実現するために3500万画素~4500万画素(Canon R5に匹敵)にしてくるのではないか。ナンバリングも「α9R」みたいな感じにするのかな。
B、技術的なブレイクスルーを施した何かを搭載する。
例)曲面センサー、グローバルシャッター、Foveonセンサーのような積層型センサー、クアッドべイヤーセンサーなど
結果的にはAが当てはまることになるが、まさかフラッグシップを名乗ってくるとは思ってなかった。今回私はどんな機種であろうとSONYがフラッグシップ機を出てきたことに非常に大きな感銘を受けたので、以下後述する。
フラッグシップ機のこれまでの常識
フラッグシップ機は、そのカメラメーカーの威信を掛けた本気の機種である。値段は度外視(は言い過ぎかもしれないが、70万円オーバーは当たり前)して、妥協せず作り込んできたカメラを世に送り出してきた。つまり、今までフラグシップ機を作ってこなかったメーカーがフラグシップ機を出してくるということは、少なからず、プロフェッショナルカメラマンにも認められ始めているカメラシリーズであることが前提であり、受注生産が中心となると思うが、年数百台から数千台くらいしか売れないプロフェッショナルカメラマン向けのカメラを本気で開発したということである。
プロフェッショナルカメラマンは具体的にどういう現場で撮影するかというと、オリンピックをはじめ
・報道
・スポーツ
・自然環境
などの現場である。電子機器にとっては非常に過酷な現場であっても「使い物になる」「そんじゃそこらじゃ壊れない」カメラであるとメーカー側が自負して発表する。
使い物になる壊れないカメラと言ってもあまりピンと来ないはずだ。機能的に上げると次の通りだ。主に
・高速連写
・高速かつ正確なオートフォーカス(AF)
・データ転送/通信性
・堅牢性と操作性
の4点が挙げられる。
ここで注目したいのは、フラグシップ機は連写速度以外、いわゆる一般ユーザーにとって何か嬉しい機能が付いてくるわけではないことだ。
かみ砕いて説明すると、技術的ブレイクスルーや真新しい機能が付いないのに非常に高価であるという点だ。これまでのCanon、Nikonのフラグシップ機のスペックを見る限り、まったく新しい機能を追加してくるというよりは、これまで販売してきたカメラを通して蓄積されてきた技術・機能を全部載せしてくるイメージである。
これはいきなりフラグシップ機でまったく新しい機能を追加した場合、その機能に万が一致命的な欠陥があった時にプロフェッショナルカメラマンから強烈に批判されるからだ。プロフェッショナルカメラマンは上述した通り、絶対に逃せない一瞬を撮影することが多いからだ。撮り直しがきかない現場でカメラという一番の商売道具が使い物にならないというのだけは絶対に避けなければならないからだ。
またプロフェッショナルカメラマンはおそらく同じカメラを2台以上所有することが常であるため、一度買うと決めて買ったからには、その2台を酷使して現場でフル活用することだろう。私たちからすれば1台90万円もするのかというイメージだが、実際には90万円×2台=180万円、3台で270万円かぁと計算するのがプロフェッショナルカメラマンである。
これまでもCanon、Nikonのフラグシップ機ユーザーは、フラグシップ機+高価格帯レンズの金額に見合うだけのお仕事をされているわけであるから、当たり前といえば当たり前なのだが。
そして1/27のα1発表を読み解く
少し前段が長くなってしまったが、ここまで読み進めてもらえれば、そもそもメーカーがフラグシップ機を出すことのモチベーションは、限りなく最上級の現場で活躍するカメラマンだけを対象に、メーカーの威信をかけて開発しているカメラということがわかるだろう。
今回のα1の発表におけるメッセージ性をまとめたい。
①ソニーが初めてプロ機、フラッグシップを名乗る機を作った
そして夏季・冬季オリンピックをはじめ過酷な現場での使用を想定して仕上げてきたこと
②これまでSONYがαシリーズで蓄積してきた機能・特徴を全部載せした
③SONYがCanon、Nikonに先駆けて「フラグシップミラーレスカメラ」を定義した
①、②については先述の通りであるが、特に①について、現在の開発とオリンピックのスケジュールを今一度確認する。新型コロナウイルスの影響がいつまで続くか、東京オリンピックが行われるのかどうかという問題もあるが、一応開催されることを前提に考えてみた。本発表でも公式HP内やコンセプトムービー内の作例写真でもスポーツを捉えた写真が複数挙がっていたため、オリンピックを前提に作っていることは間違いないと考えていいだろう。
1月27日現在、東京オリンピックの開会式である7月20日のちょうど約半年前の時期にある。これはこれまで、とくに昨年の2020年7月に予定していた東京オリンピックの開催半年前にCanon、Nikonのフラグシップ機である1D Mark III(1月発表)、D6(1月にはアナウンスあり、3月に公式発表)の発表時期と同じである。
このオリンピック開催半年前にフラグシップ機を発表するというフローを踏んでいる点でも、SONYがオリンピックで「使える」フラグシップ機を世に送り出すというメッセージが伺える。
私が特に注目したいのは、③である。これはかなり重要なメッセージであり、今後のカメラ業界の常識を塗り替えることになると思う。フラグシップ機のこれまでの常識については、YouTubeではUZUチャンネルのUZUさんも語っていたので紹介しておく。
これまでCanon、Nikonのフラグシップ機の特徴はおおむね以下の通りである。
- 2000万画素にあえて抑えている
- 高速連写と高いオートフォーカス(AF)
- データ送信/通信性(別途送信機を購入してカメラに取り付ける必要がある)
- 高い堅牢性と操作性
特に「2000万画素にあえて抑えている」というのはこれまでカメラ業界、出版、報道などの現場では、技術的というよりある意味「常識」として捉えられてきた。とりわけ新聞や報道の現場では2000万画素あれば必要十分であるという認識が大半であった。
もちろん画素数が上がると写真のデータ容量も大きくなり、その分、通信環境や使用するデバイスによっては遅延が生じるという現場環境を加味して、カメラメーカー側もあえて画素数を抑えている(はずである)。
本発表のα1は確かに現場で使えるフラグシップ機であるものの、同時発表された5G対応の「Xpedia Pro」との接続も含めて、未来志向、これから通信面で到来する5G社会への変化を見据えて、
- SONYにとってこれまで作ったことのないフラグシップ機を作った
- これまでフラグシップ機には搭載不可能とされてきた高画素センサーをフラグシップ機に搭載した、それも5000万画素
の2点に同時に挑戦した。
あまり特定のメーカーや機種だけを持ち上げることはしてこなかったのだが、私は一SONYユーザーとして誇らしさを感じた。カメラのことを知っている人だからこそ本発表は相当インパクトのある情報であり、Canon、Nikonは相当頭を悩ませるだろうと思う。
今回は技術的ブレイクスルーは主に
8Kを30分も安定して撮影できるだけの放熱設計
ブラックアウトフリーで秒間30コマ撮影
これまでの小型軽量ボディに全部載せしている
の3点が挙げられるが、これまでのαシリーズのすべての技術をこの小さな筐体に収めてきたところがすごい。
もちろん既存のフラグシップ機ユーザーからすれば、小さくて不便、ボタンが少ないをはじめ多くの不満点が挙がると思う。しかしながらSONYはおそらくこうしたこれまでのフラグシップ機ユーザーは購入対象者としていない気がする。というのもこれまで1D系、D1ケタ台を使用してきたユーザーからすれば、技術はすごいがほかの部分が…と言い出すと思うし、値段はどうであれ買わないと思う。
一方で、αシリーズを使い込んできたユーザーであれば、多くの場面の写真を撮る、動画を撮るのに必要なISO感度、露出設定をはじめとした基本設定は、ほぼほぼカメラ側に任せていいと理解しており、そもそもそこまでボタンって必要ないことがわかっている。さらに今回は動画撮影にも特化していることから、あえて縦位置グリップ一体型ではなく、分離式にしているのも、動画撮影の場面ではカメラはむしろ小さい方が運用しやすいというニーズもかなえている。
つまりこれからの時代、ちょうどミラーレスへの移行というタイミングでフラグシップ機の常識も考え直していいよねという常識への挑戦であったわけだ。そしての文化的ブレイクスルーに対して、SONYのカメラ、スマートフォン、ネットワークなど多くの事業を融合させてチャレンジしたというのは、もはや日本企業とは思えない。本当にすごい。
ワークフローのアップデート
さらに通信接続性という面でも安定したFTP、有線無線接続で補えているだけでなく、Xpedia Proを通じて撮影から配信・データ送信までワンオペができるようにすらなっている。
特に私のような基本ワンオペで速報性の高い情報を発信する必要のある場面においては、こうしたワンオペを見据えたワークフローのブレイクスルーは非常にありがたい。
確かにCanonはRシリーズを発表した時にクラウド転送も手掛けてきたが、やはりSONY全体で培ってきたXperiaシリーズとの融合的な発展はすさまじい。Xperiaはあくまでスマートフォンにも関わらず、ここまでカメラマンワークフローの見据えた変態的なスマホを出せる大企業というのもいま日本には数少ないメーカーと言える。