飲食とコロナ不況

今回開発した東広島テイクアウトアプリは飲食業界のみなさまが対象である.起業やビジネスの観点で,飲食業過は全体でこそ25兆円の市場規模があるものの,1店ごとに見たときにはそこまで大きい金額ではない.一時期話題になった食べログ問題のようにまとめサイト側が情報操作しているということもあった業界である.

今回はなぜ飲食業界の話をしているのかということについて,随筆的な形で紹介する.

①いま店がつぶれると次にテナントが埋まるまでに相当な時間・コストがかかる

商店街に空きテナントが増えた光景を目にすることにすでに慣れてしまった私たち.このコロナ不況を踏まえてさらに店舗の撤退は進んでいくと思われる.

自分が小さなお店の経営者になったイメージしてほしい.一度離れた業界のビジネスに,世間でもうオワコンと思われるビジネスに対してすぐに再チャレンジできるだろうか.

いまここで飲食店をつぶしていく状態を野放しにしていくのは,もはや「社会の無関心」の問題である.飲食店というのは,確かに個別で大企業という企業は少ないかもしれないし,自動車や電機メーカーのように旗振り役の企業や社長はあまりいないかもしれない.全体では10兆円とも20兆円とも言われいる飲食業界だが,日本マクドナルドなどでも5千億円程度の売り上げにとどまる.業界のドンと言える存在がいないため,こうした政治的決定が必要な問題に対して業界として戦うという概念が形成されにくいのである.

しかしながら,雇用として学生,若者,主婦などの収入口を支えている.飲食店のオーナーや不動産も非常に頭を悩まされているだろう.

②若者の家計に直撃している

飲食店のほとんどは週の多くの時間・曜日が営業時間であり,毎日が現金収入がメインである.その現金収入で次の材料や固定費の支払いになって,続く事業である.金額は例だが,50万円を先に投資して,60万円の売り上げがあって,10万円が利益になる.このようなキャッシュフローがほぼ毎日行われているわけだ.

つまり飲食業界は営業日,時間としている日を一日でも止めると大きな打撃を受けるのだ.たしかに電気や水道,インターネット回線など,人々の生活になくてはならない絶対的に必要なインフラと比べると飲食はそこには当てはまらない.

しかしながら人間の人生を豊かにする欲求の一つとして「おいしいご飯を食べに行きたい」という人間の幸福度に寄与しているのは間違いないだろう.さらに美容や理髪よりも高い頻度で私たちの生活に根付いた産業である.

さらに言えばそれらを支える労働者の多くはパートやアルバイトである.学生や若者で飲食にアルバイトしている方も多く,学費や生活費を工面している方は非常に多いはずだ.

先日広島大学から生活に困窮した学生に対する大学独自の給付金施策を始めた.確かに本当に困窮している学生がいるのも事実だろう.しかしながらアルバイトの収入が減って,春休みに遊びに行かなかったお金をそのまま生活費に回して,耐えているという声も聞いた.

1か月なら何とか耐えられても,これが数か月続くとなると,いよいよ学生の多くもしんどさが増すであろう.

キャッシュレス社会が自転車操業の業界を淘汰していくかもしれない

2019年10月の消費税10%増税を皮切りに,QRコードや電子マネーによる支払いを優遇する措置が取られた.確かに消費者側からするとその場で現金で払わずに会計を済ますことができるが,お店側とすると支払われたお金が実際に店側に流れてくるのは,2,3か月後になることが多い.現にクレジットカードの支払いは多くが1,2か月後になるため,その分お店側に入ってくるお金も遅れて受け取ることができるはずだ.

いままでは毎日営業して得られていた収入だんだんと枯渇してくるのが,5月,6月である.4月上旬の緊急事態宣言の前から少しずつ営業売り上げ自体が下がっていた中で,さらにまったく収入がない状況が続くことは,飲食店側を追い詰める形のタイミングであった.同じ論理で言えば,明日お店を再開できて,お客さんもフル回転で立ち寄ってくれたとしても,実際に売上金を受け取れるのはそれから2,3か月後となるのだ.再開から数か月はお客さんは来てくれてもキャッシュフロー上営業が回らないという事態になりかねない.

こういう意味でも黒字倒産企業が増える可能性があるのは間違いないうえ,キャッシュレス社会とうまい付き合い方をしていく必要があるのだが,すべての飲食店オーナーにこれらのリテラシーがあるとは思えない.

②まちの税収も減る

固定資産税,法人税などの減少

地方自治体の税収には,固定資産税,地方法人税などがある.法人税はその名の通り,営業活動と連動して,地域での商売が多ければ法人税も比例して増える一方で,地域の商売が衰退すれば必然として減る.あまり言われていないが,不況の後,1年,2年後にこうした税収減の話がたびたび聞かれるが,不況にあえいでいる際にはあまりそうした議論はされない(している暇もないのだが).

また固定資産税はその土地の地価に連動して決められる.地価が高く算定されれば,同じ土地でも固定資産税の額が上昇する.今回,オリンピックバブルによる高騰が落ち着いてきたところにコロナショックが直撃しており,今後都心部の地価が低下する可能性が高い.また,不動産では,今後無理にリアルオフィスを拡大する必要のある企業業種は限られてくるだろう.オフィス移転などで湧いていた渋谷,虎ノ門ではオフィス業で営んでいる不動産に打撃を与えそうだ.

欲しいのは一時的な補助金よりも仕事である

現在,政府,地方自治体によるコロナ対策の政策を目下検討している段階にある.国民10万円の給付金制度は日本国政府としては非常に進んだ政策になったと私も評価している.東京都や大都市では50万,100万円単位の補助金も給付される状況になっている.

しかしながら,いくら単純労働の多い業務が多い飲食とはいえ,従業員の多くがずっと自宅で待機状態となり,腕のいいシェフやスタッフが社会的に意義を感じづらい生活をするのは社会的にもあまりよくないはずだ.

それが社会的な貢献を感じられないことで自殺やその業界を去ることにつながることもある.

感染リスクを下げた中で,営業自粛・短縮状況下で,少しでも飲食業界の仕事を増やすことが,全員とは言えないが,テイクアウトによる注文を増やすことが,ひいては飲食業界を支えるアルバイト・パート従事者への雇用回復,食材などを供給する農家さん,酪農家さん,食器や

③お店の多様性はどんどん損なわれる

どこに行っても同じお店が並ぶ光景に拍車がかかる

商店街がだんだんと衰退してきて,地方には埼玉をモデルケースにしたロードサイドショップ,大型ショッピングセンターが点在している.これまでも大きな打撃を受けてきた地方の零細,中小企業の小売店はどんどん姿を消してきた.

さらにここに,コロナショックで地方から飲食,小売店を衰退させたらどうなるか.地方でもさらに系列店,チェーン店に取って代わられるだろう.

お店自体が減る可能性も高い

さらに言えば,大手企業であっても新規出店は見合わせてくるだろうから,店自体がなくなっていくかもしれない.税収的にはどのお店であっても売り上げが大きいのであれば問題ないかもしれないが,,税金を納めてもらえる企業,お店がいなくなっては話は別である.

終わりに 私たちのまちはいま崩壊の危機にある

お店の側も,行政の側もこのコロナ不況を乗り越える対策をしない限り,どんどんまずい方向に走るだろう.少しでも,身近な地域が連携して耐え,できる施策を打ち出して行動することが,今後のまちの未来,私たちの将来に関わる重要な局面であることをどうかご理解いただけただろうか.

私たちはそんな思いも込めて東広島テイクアウトマップを開発した.

今誰かが行動しない限り,明日はないだろう.そんな重要な局面が「少しずつ」「静かに」私たちの眼前に迫っている.

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